「アスラン、さっきいってたビジネスの話なんだけど」

　病院の裏庭のベンチで、リュウはアスランにいった。

　アスランはうなずいた。

「それって、あんたが探しているヤギとか、そのカメとかに関係あんの？」

　さっきまでTシャツの中にいたカメは裏庭の芝生で草を食んでいる。

「はい、私、動物探偵のビジネスしています」

「その動物探偵ってなんだよ？」

　アスランはたどたどしい日本語で説明しはじめた。

　要するに、それは行方不明になった動物の捜索を引き受ける仕事だった。

　行方不明の人間の捜索であれば、街なかの探偵事務所や警察の仕事だ。

　それに対して、動物探偵は、いなくなった動物、たとえば飼っていたイヌやネコ、小鳥などを探す。

　リュウも、掲示板や電柱に、いなくなったペットの写真をのせて、見つけた方は連絡をくださいと書いたポスターを見かけたことがあるのを思い出した。

「なるほど、うまいこと考えたな。そのカメもそうなのか？」

　アスランはポケットから折りたたんだ紙を取り出した。広げると、カメの写真の下に「うちの大切な家族でケヅメリクガメのヒミコがいなくなりました。かみついたりしないやさしい子です」とある。

「ヒミコつうのか！　このカメ」

　ヒミコはもぐもぐと穏やかに草を食んでいる。

　アスランの話では、こういうポスターを見つけると、飼い主に連絡して発見した場合の報酬を交渉して契約をし、それから捜索を開始するという。

　最近では、口コミで評判が広がって直接捜索の依頼が来ることあるという。金持ちの飼っているペットだと提示される報酬が100万以上ということさえあると聞いて、リュウは身を乗り出した。

「でもさ、どうやって探すんだ。カメならトロいだろうけど、イヌやネコや鳥はどうやって探すんだ？」

「私、子どもの頃、まわりに動物いっぱいいました。ヤギとかヒツジとかウシとか、ラクダとか。鳥もよくつかまえた。だから、どこに行くか、よく観察すると、なんとなくわかる。人間探すほうがずっとむずかしい」

「ふーん。やっぱ依頼はネコやイヌが多いのか？」

「ネコが一番多くて、次がイヌ、その次が鳥。ほかにもヘビとかカメとか、カエルとか、カブトムシとかもあります」

「カエルとかカブトムシとか、見分けつかねーだろ！」

「秘密の戦略があります。秘密なので、いえないのですが……」

「あんたの探しているヤギ、あれもそうなのか」

「そうです。ただ、あのヤギはどうもよくわからない。依頼主もよくわからない。この何ヶ月かあのヤギを追いかけています。でも、目撃者もいない。リュウさん、あなたが唯一の目撃者。それも不思議……」

　アスランは芝生からヒミコをそっと抱え上げた。

「アスラン、この仕事、あんた一人でやっているの？」

「私と友だちと二人。でも、いろいろ知恵をくださる先生がいます」

「先生？」

「はい、お世話になっている先生。ハサン先生といいます」

（第９回へ、つづく）